店内BGMはなく、厨房からお皿を洗う音とフロアの楽しげな話し声が静かに響く。食べ物を注文してしまうと、女性3人のグループの楽しそうなおしゃべりが少しずつボリュームをあげた。音量が上がったというよりも、会話の内容に具体的なワードが含まれていて僕の耳をそばだたせるのだ。その女性たちが話しているのは主に音楽のことで、洋邦ともに彼女たちが語り合うアーティストの名前が非常に何というか、聞き流せない。「〇〇の2010年の来日公演のときに」とか「こないだ〇〇のライブに行ったんだけど」とか大型フェスの話や、なかなかマニアックなインディアーティストの話とか、その合間に元カレの話とかそこにいない友達の話なんかが組み合わさって興味深い。気になって打ち合わせの話が滞る。僕は首を伸ばしてそびえ立つパーティション越しに女性3人グループのほうを伺う。「オレはもしかしたらあのおしゃべりに参加したいのかもしれない」とすら思ったけど、当然そんなことをしたらおかしな人だと思われる。我々は運ばれてきた食べ物をそそくさと食べ終わり(とても美味しかった)、彼女たちは青島ビールを追加したりしてまだまだおしゃべりは終わらないのだろう。
席を立ち、会計をして店を出ようとするときに、女性グループと目が合った。彼女たちのおしゃべりが急に止まる。ああオレが話を盗み聞きしていたのがバレたのだろうか。すると一人の女性が「GOMES THE HITMANの山田さんですよね!?」と立ち上がって少し興奮したみたいな感じで「200◯年のインストアライブに行きました!インスタライブもたまに見ています!」と言ってくれて、僕も「なんだか楽しそうな話してたから気になっちゃって」と仲間に入れてほしかった旨を伝える。「わたし、オザケン東京の初日に行ったんです。2日目はSDP登場して羨ましいっす。あ、突然話しかけてごめんなさい」「いや、こちらこそお邪魔しました。みんな楽しいおしゃべり続けてください」と気遣い合って別れたのでした。なんということでもない、ある暑い日の夜の吉祥寺での出来事。山田さんですよね?と話しかけられるのは気づいてるけど話しかけられないのより、いい。僕もできるかぎりニコニコするようにしようと、最近特に思うようになりました。
写真は本文とは全然関係ない、あまりに暑くて芽が出てアートみたいになったサツマイモ。
