2018年07月24日

『omni』を回想する・後編【00-ism】

_jacket

15年前の今日、2003年7月24日にGOMES THE HITMANの4thアルバム『omni』が発売されました。『omni』を回想する、後編です。昨日の記事から続いてお読みください。

VAPというレーベルは日本テレビ系列の会社だったので、打ち合わせに行くといつもアンパンマンが迎えてくれた。レーベルのディレクター氏から浦沢直樹『MONSTER』のコミック全巻を渡されたのは2002年の暮れのことだっただろうか。アニメ化が決まった人気作の主題歌を勝ち取りたいというのがディレクター氏の狙いだった。漫画の苦手な僕でも『MONSTER』の世界観に一気に惹きこまれ、僕が2003年最初に書き上げたのが「愛すべき日々」だった。覚えたてのProToolsで僕が作ったデモを聴いてスタッフ陣は湧きたち、僕も手応えがあった。デモの段階で「sound of science」のイントロダクションもついていたこの曲は生のストリングスを取り入れた壮大なサウンドに昇華することになる。2004年春に放送がスタートした『MONSTER』は、しかし、JAPANのデヴィッド・シルヴィアンとフジ子・ヘミングという世界的な音楽家がエンディングテーマを担当。「太刀打ちできるかよ…」と涙を飲むことにはなったけど、晴れて『omni』のリードトラックとして華々しくオープニングを飾ることになりました。再生ボタンを押してイントロにうっすらと聞こえるのは吉祥寺の夕方に鳴る鐘の音。『mono』冒頭とリンクしていて、『mono』との二部作として明確なコンセプトが貫かれていたことがよくわかる。夕方に吉祥寺をうろうろしていると今でもこの鐘の音はどこからか聞こえてくる。

前作『mono』の静謐なサウンドへの反動とコントラストで、『omni』はきらめくようなポップさを包括した作品になった。実際僕はもう一回ポップスをやり直したいと思っていたかもしれない。「california」という奇天烈な曲の存在意義を説明するのはなかなか難しいが、この曲はきっと『omni』のなかにしか居場所を見つけられなかったバブルガム・ミュージック。思春期にすり減るほど聴いたJane’s Addictionの「Three Days」という曲を参照してアッキーにギラギラ乱反射するギターを何本もダビングしてもらった。奇しくも2003年はそのJane’s Addictionが13年ぶり(!)の新譜『Strays』を発表した年でもありました。ドラムを須藤俊明が担当、同期トラックを使って必死にステージで再現したことが懐かしい。

2002年秋にテレビで眺めた北朝鮮拉致被害家族の帰国のシーンは僕に様々な想いを抱かせた。2001年のアメリカ同時多発テロは世界の終わりの始まりだと感じたけど、それとはまた違う、うまく言葉にできない感情。「そばにあるすべて」という曲を書いた背景にはそんな想いがあったことを僕はいつも思い出す。ヒックスヴィル真城めぐみさんをコーラスに迎えたことも個人的には感慨深い。“omni-”という接頭辞には「すべて」という意味があるから、このアルバムの主題歌はこの曲かもしれないな、と今回のボックスセットをまとめる作業で歌詞を睨みながら改めて思った。ここに書かれたのは今でもまったく変わらない僕の人生についての意思表明。よくても悪くても、降っても晴れても、人生は日めくりカレンダーのように続くのである。

レコーディングは余裕のあるスケジュールで行われた。メンバー4人とサポートギターのアッキーでバンドアレンジにも時間をかけた。大きなスタジオでベーシックトラックは録音され、ピアノもハモンドオルガンも、弦楽器や管楽器も贅沢に鳴らされた。ボーカルやコーラスは湘南にあるディレクターの別荘にコンピュータを持ち込んで泊まり込んで録ったのだけど、煮詰まったら海へ出かけて気分転換ができてよかった。「carolina」や「千年の響き」で聞かれる海や雑踏の音は湘南の浜辺で収音したものだ。ジャケットに採用されたカリフォルニアの海の風景は湘南の海から続く夢の果ての象徴なのかもしれない。

GOMES THE HITMANは『omni』のようなアルバムをそれまでもそれ以降も作ったことがない。2002年から2003年というのは特別な季節で、このアルバムはその季節にしか実らなかった果実のようだ、と15年経った今思う。ぜひたくさんの人に振り返ってほしいし、再発見してもらいたいと願っています。



Posted by monolog at 08:19│Comments(0) │