
フジロック・フェスティバル2016を2日間ただただ堪能してきたのだけど、それよりも先に振り返っておかないといけないのが先々週観たフィッシュマンズの11年ぶりのツアー初日の東京公演だ。1990年代中盤、アルバムで言うと『ORANGE』の頃から東京でフィッシュマンズがライブをするときは可能な限り出かけていって、フィッシュマンズがどんどん得体の知れない大きなアイコンになっていくのをリアルタイムで体験した。先月末に1996年12月26日に赤坂ブリッツで収録されたライブが2枚組で発売されたばかりだが、フィッシュマンズの思い出が詰まりまくった僕のスクラップブック(宝物)のなかの観にいったライブチケットの半券を眺めていたら、チケットセゾンで買ったその日の公演のチケットと一緒にバックステージパスを見つけた。ちょうど僕が大学を卒業して映像制作の仕事をしている頃で、僕の仕事場のまわりにはフィッシュマンズの現場でカメラを回している人がいっぱいいて(しかも映像監督の川村ケンスケさんは僕と同じ東京外国語大学英米語卒の大先輩だった)大ファンである僕に誰かがパスをくれたことを憶えている。でも終演後、僕は緊張しすぎて「や、やっぱり帰ります」と楽屋挨拶に行かず逃げ出したことも思い出した。
僕がフィッシュマンズのライブを観るのは1999年、佐藤さんが亡くなった後の夏の「フィッシュマンズ的組合」と題されたライブ以来だった、と気付いて驚いた。青春時代の象徴になってしまったフィッシュマンズの、佐藤さんがいなくなった後の新しいカタチから無意識に(あるいは意識的に)目をそむけていたのかもしれない。それが今年、11年ぶりにフィッシュマンズがツアーをすると聞いたときに心から「観たい」と思ったのはなぜか。それは「2016年がそういう巡り合わせの年だから」というのが、漠然としながらも他に言いようのない僕の答えだ。5月と6月に小沢健二を観て7月にフィッシュマンズを観た年。
ゲリラ豪雨みたいな外の天気も功を奏して、ZEPP TOKYOの熱気はすごかった。僕は2階席から観たのでステージ全景とうねるオーディエンスが視野に。暗転して原始的胎動のようなイントロダクションから始まって、最初の「Go Go Round This World」からそのポジティブなヴァイブレーションに痺れてしまった。照明も素晴らしい。ステージが生き物みたいに見えた。誰も同意してくれないと思ったから口にしなかったけど、映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に登場するイモータン・ジョー率いる軍団のなかの、戦闘高揚のために火を噴くギターを弾く男が先導する巨大スピーカーと太鼓を叩くウォーボーイズの乗った楽隊車、あれみたいだ…と感じて(“悪の象徴”ではなくポジティブな楽団。火吹きギタリストはもちろん木暮さんだ)かっこよくて笑いがこみあげてくる。それからなんと3時間半、そこには懐かしさとかセンチメンタルとかを超えた見たことのない最新型のフィッシュマンズがいたのだけど、同時に「あああ、こんな感じだった!」とも思う瞬間がいくつもあった。
選曲もすべての時期から選ばれていて、『Neo Yankee's Holiday』から「エブリデイエブリナイト」を郁子さんが丁寧に歌うのもすごくよくて、最後みんなでシンガロングするシーンなんて初めてで新鮮で感動した。『ORANGE』から「気分」が聴けたのも嬉しかったし、バンド誕生黎明期の「Blue Summer」が聴けたのもその心意気が胸に響く。「Weather Report」では春の嵐が吹いて、2時間過ぎてもまだこれから「ナイトクルージング」と「LONG SEASON」が待っていると思うとクラクラして、ああ僕らはなんて幸せなんだ、と感じた。本編最後が「新しい人」だったのもメッセージ、思い入れ過多の僕は残さず受け止めた。流れるミュージック、暗いメロディ、音楽がいつも心ふるわす人や手紙を待つ人に届きますように。アンコールの「いかれたBaby」で佐藤さんの声が聞こえてきたとき僕はどんな顔をしていただろうか。最後が「チャンス」だったのもよかった。この日カメラを撮影していた知り合い伝てに当初の予定では「感謝(驚)」だったという噂も耳にしたが、「チャンス」で終わるのが相応しいライブでした。「未来のことも明日のことも/そんなもんなんにもわかりゃしないよ/ねえ教えて今あなたのこと/急いでよ ねえ/だって今は恋の予感だよ」と最後まで僕は大きな声で歌って、次の日朝からラジオの生放送で歌わないといけなかったのに声が少し枯れちゃってて、でもそのノドの感じが今観た3時間半の証明みたいな気がして嬉しかったのです。こんな2016年夏を迎えることなんて90年代には予想もできなかった。
終演後、一緒にステージを目撃した高橋徹也さんに繋いでもらって茂木欣一さんとお話することができた。16年前の2000年にガチガチに緊張して挨拶をした僕のことをちゃんと憶えていてくれて「ゴメスの山田くんだよねえ?」とニコニコ笑顔で接していただいて泣きそうになりました。この日のことを忘れないだろうし、次にフィッシュマンズのライブを観るときは「感謝(驚)」を絶対聴きたいなと未来のことを考えている。とにかく圧倒的で素晴らしいライブでした。驚きと感謝込めて。
